最後の恋のお相手は
「でも……こんな大金……」

「ほな、こうしたらどうや?」

戸惑う私を見て、日向さんがなにかを思いついたようだ。さらに距離をつめて座り直すと、また耳元に唇を寄せた。

「オレがこの金で、キララちゃんを買う」

「……えっ!」

まさかの提案に、目を丸くして日向さんをみつめた。

「一回、二百万円」

「私にそんな価値、ありません」

気になる男性なら、嫌ではないのが本音だ。でも、一回、二百万円やなんて……。

「価値は、オレが決める」

日向さんはそれだけ言うと、ビールを一気に飲み干した。

「ごちそうさま。ほな、また」

「あの! 日向さん!」

話はまだ、終わっていない。慌てて席を立つと、強引に腕を引っ張られ、引き寄せられた。

「この店は、すぐに辞めること。ええな?」

真顔で、強い口調で言われた私は……うなずくのが精いっぱいだった。

「それでヨシ」

腕を離したその手で、私の頭を撫でると、いつものように白い歯を見せて笑った。

頭を撫でられた私は、日向さんから魔法をかけられたかのように、しばらくの間、動けなくなった。

「キララちゃん、どないしたん?」

「私、お店を辞めます」

心配して話しかけてくれた店長をまっすぐにみつめて、言った。


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