最後の恋のお相手は
「わかりました」

もともと、日向社長が気になっていたし、一回のデートで四十万円ももらえるだなんて。そんなおいしい話を断る理由がなかった。

「ほな、商談成立」

日向社長が手を差し出し、私が握手に応じたことで成立した。

「メアド教えて?」から始まり、「名前で呼んでいい?」と聞かれ、「次の日曜日、さっそくデートしよう?」と言われた。

気になる男性が、実は社長で。さらには二百万円で買ってくれるという……嘘みたいな本当の話。

「野球も観に行きたいし、ビアガーデンにも行きたいし……あー、楽しみや」

私みたいな女とのデートで、心底うれしそうな笑顔を見せてくれるから、なんだか自分自身がすごく極悪な女に思えた。

忙しくて恋を忘れた社長を手玉に取っている悪い女、みたいな。

「もうちょっとふたりでいたいけれど、タイムアップや」

日向社長が腕時計に目をやると、スッと立ち上がった。

「日曜日、楽しみにしているから」

まっすぐな目で、爽やかな笑みを見せられると、胸の鼓動が加速した。

「よろしくお願いします」

「あかん」

「え?」

なんであかんの? 目を丸くしてみつめると、日向社長が照れ臭そうに頭をかいた。

「そんなかわいい顔されたら……離したくなくなるやん?」

「あ……」

まるで、付き合いたてのカップルみたい。そう思うと、私まで照れ臭くなって笑った。

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