最後の恋のお相手は

日曜日、午前十時。
待ち合わせは、私の地元の駅前。ロータリーまで車で迎えに来てくれることになっていた。

真っ赤なスポーツカーが、私をみつけて停車した。日向社長が窓から顔を出すと、すぐに歩み寄って挨拶をした。

「おはよう。乗って?」

ピカピカに光る車は、注目の的になった。まわりの視線を感じながら、急いで車に乗り込んだ。高級車=外車だと思っていたけれど、日本車の中でもかなり高級な車だと、素人の私が見てわかるほどだった。

私なんかのデートにこんな高級車、もったいない……。

「どないしたん?」

様子がおかしい私に、日向社長はすぐに気がついた。

「あ、あの……。私なんかに二百万円もの価値があるのかと……」

「また言ってる」

フンと、日向社長が鼻で笑った。

「価値のない女に、そんな大金を使わへん」

「……でも」

「郁美」

強い口調で名前を呼ばれて、ドキッとした。背中にひと筋の汗。

「ふたりだけの時間を、楽しみたい」

日向社長に視線を送ると、その視線を受け止めて、優しく微笑んだ。

「まずは、買い物に行こう」

「あ、はい!」

日向社長の運転で街に出た。車は、とある百貨店の駐車場に入った。

「今日は、ここで買い物と、昼ごはんを済ませる。その後は、ドライブでもしようか?」

「はい」

「郁美」

「はい?」

緊張している私に、日向社長は苦笑いだ。

「そんなに『社長』って意識されていたら、デートを楽しまれへん」

「でも……日向社長は『社長』ですから、緊張します……」

素直に気持ちを伝えると、そっと優しく頭を撫でられた。

「オレは『社長』である前に、日向雄洋っていうひとりの男なんやから」

「はい……」

そう言われても、なかなか緊張はほぐれない。


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