最後の恋のお相手は
鉄板焼きのお店を出た後、雄洋さんが運転手を呼ぶために電話をかけた。その後ろ姿をじっとみつめた。

今日は、雄洋さんの様子がいつもと違った。大好きな野球が雨天中止になり、虫の居所が悪かったのかもしれない。

「お待たせ。ロビーで待ってたら来てくれるから」

ボソッとつぶやくと、ふたり、エレベーターを待った。エレベーターが到着し、誰もいない、広いエレベーターに乗り込んだ。

ドアが閉まった瞬間、雄洋さんが私を引き寄せ、抱きしめた。

「ごめん。紳士とか言っていたのに、がまんできん」

小さく耳元でささやかれた後、そっと身体を離された。みつめあったその後は、ロビーの階に着くまで、夢中でキスを繰り返した。

「身勝手なオレを許して」

エレベーターのドアが開く前、雄洋さんはそうつぶやいた。

私のこと、好きですか?

そう聞きたいけれど、言葉にできない。

私は雄洋さんのこと、好きです。

そう言いたいけれど、言葉にならない。

どうして二百万円もの大金を払っていながら、がまんする必要があるのか?

好きにしてくれていい。デート五回分の間は、心も身体も、雄洋さんのものだから。

そう伝えたい。私の気持ちは隠したままで。お金で繋がっている間は、疑似恋愛を楽しみましょう……って。そう割り切れたら、お互いに楽だから。



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