最後の恋のお相手は
「お金のことは、いい。それよりオレは、郁美に謝りたかったんや」

「謝る?」

そう聞き返した私を、雄洋さんが座るように促した。何を謝りたかったのか不思議に思い、素直に座りなおした。

「郁美の大事な時間を、オレとの時間に使わせてしまって悪かった」

「そんなこと……」

そんなことで謝らせてしまって、こちらこそ申し訳ないと思った。恋愛感情もない、夜の仕事を辞めさせたいだけの、アルバイト従業員の私に、大金と、大事な時間を使わせてしまって……。

「だから、もう会うのはやめようと思ったんや。でも、金は専門学校の費用に充ててほしい」

「なんで……」

なんで私にそんなに優しくしてくれるんやろ……。心遣いがうれしくて、泣きそうになるのをなんとかこらえた。

「なんで……って。夢を叶えてほしいと思っただけや」

優しく微笑んだそのまなざしは、娘を見守る親のように思えた。雄洋さんの私への思いに恋愛感情はなかった、と改めて感じた。

「ありがとうございます」

私も、とびっきりの笑顔で答えた。でも、あの日のキスがひっかかったままだ。

「コーヒー、冷めてもうたけれど、良かったら……」

これを飲み干したら、ふたりの関係は終わる。そう思いながら、一気に飲み干した。

「ごちそうさまでした」

立ち上がると、雄洋さんも立ち上がり、コーヒーカップを片づけた。その後ろ姿を、ぼんやりとながめた。


< 31 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop