最後の恋のお相手は
「横浜! 玄人好みやな!」

く、玄人好み……ですか? たしかに、大阪の人間が、横浜ファンとか。玄人と言えば玄人……か? とりあえず、笑顔は絶やさず、背中にはひと筋の汗。

「気に入った。名前は?」

「え?」

「今度、野球を観に行こう。名前、教えてよ?」

いきなり、お誘いですか! まさかの展開に、口をパクパクさせた。

「食べてからでいいわ」

そうでしたね。まだお食事中。うんうんとうなずくと、彼は味噌汁を持って指定席に座った。

「あー、まだ食べてはるんか」

一服してきた国富さんが、ナイスタイミングで戻ってきた。私と話していなければ、食べ終わっていたかもしれない彼に目をやって、ボソッと言った。

……あとで名前を聞かれる。そう思うと、胸が騒がしくなって落ち着かない。

国富さんは、そんな私には気づかないまま、厨房内の清掃を始めた。社員食堂は十四時で閉店し、十五時には片づけを終えて帰る。

ここでは、残業はしたくない。彼にほんの少しお近づきになれたのはうれしい半面、早く食べ終わって帰ってほしい気持ちもあった。

「ごちそうさま」

その声に、慌てて厨房から飛び出した。

「ありがとうございました」

最後の客に、ドキドキしながらお礼を言った。けれど、名前を聞かれることはなかった。

……なんや。彼はノリで言っただけか。がっかりしながら後片づけを始めた。



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