最後の恋のお相手は
「まぁ、座り」

日向社長に促され、やっとソファに座ることができた。自分がやってしまった事の重大さに今さら気づき、フカフカのソファも今は針のむしろのようだ。

「お見合い、破断になってしもた」

破断になったのに、なぜかニコニコ笑顔で私をじっとみつめている。

「北方郁美さん」

「は、はいっ!」

背筋が勝手にピンと伸びた。背中にはひと筋の汗。

「オレは今まで仕事と野球に夢中で、恋をする気も、ヒマもなかった」

「はい」

「でも、それは言い訳で。実際は、恋をしたい相手がいてなかった」

「……はい」

「今、な。社長という立場でありながら、従業員を好きになってしまうという、最悪な事態が起きている」

「……はい?」

え? 日向社長の話の意味が、すぐに理解できず、聞き返した。

「北方さんに質問する」

聞き返した私の質問は流され、逆に質問されてしまった。

「『結婚してください』って、オレのこと、好きなん?」

え? 私、さっき、そんなことを口走っていたんや!? 驚きのあまり言葉を失った。

「なぁ、答えて?」

白い歯を見せながら、意地悪な笑みを浮かべる日向社長と、目を泳がせて、落ち着きを失った私……。

「九十分以内に答えてや? ここのラウンジ、時間制で予約しとるから」


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