最後の恋のお相手は
「私……ずっと気になっていたんです。社員証もない、茶髪の男性が」

「……それって、オレか?」

「はい」

小さくいただきますを言って、コーヒーを口にした。甘い甘い、コーヒーを。

「でも、私……。今までロクな男性に出会ったことがなくて。次に好きになった人と、最後の恋をしたくて」

日向社長が真顔でうなずいてみせた。その表情をチラリと見てから、話を続けた。

「最後の恋にしたい男性が、まさか社長やなんて。簡単に気持ちを伝えたら、玉の輿を狙う、いやらしい女やと思われそうでこわかった」

「そんなこと、思わへん。だから、気持ちを聞かせて?」

日向社長に視線を向けると、真顔を崩して微笑んでいた。

「日向社長が好きです」

「あかん」

「え?」

なんであかんの? 目を丸くしてみつめると、日向社長が照れ臭そうに頭をかいた。

「日向社長って、呼ばんといて?」

ああ! そうですね……。私もつい照れ笑いを浮かべた。

「雄洋さんが好きです」

やっと気持ちを伝えることができた。

「ありがとう。オレも郁美が好きや」

息がかかるくらい近くに雄洋さんが距離をつめると、ドキドキする間もなく、唇を重ねていた。

< 47 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop