わたし、結婚するんですか?
 おにーちゃんは寂しいぞ、と言ってくるので、

「違いますよ。
 第一、社長もさっき、褒めてたじゃないですか、課長のこと」
と言うと、

「いいや、男の俺が言うのと、お前が言うのじゃ、違……」

 そのとき、章浩が、ぎゃっ、と悲鳴をあげた。

 よく漫画なんかで驚いている人が、ぎゃっと言っていて、そんな悲鳴の上げ方するかな、と思っていたのだが、今、目の前で章浩が、まさに漫画のように、ぎゃっ、と悲鳴を上げていた。

 ……社長、しっかり。

 そう思いながら、振り向くと、案の定、薄く開いた扉から悠木遥久が覗いていた。

 能面のように無表情で怖い。

 っていうか、一点を見つめていて、怖いと思いながら、その視線をたどると、遥久は、恐怖のあまりか、洸の手を握りしめている章浩を見ていた。

 遥久は、社長が居るというのに、なんの断りもなく、ドアを開け、入ってきた。

「社長……」
と呼びながら、淡々とした口調で言ってくる。
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