わたし、結婚するんですか?
 




 お昼休み前、洸が給湯室で鼻歌を歌いながら、片付けをしていると、誰かがドアの隙間から、こちらを覗いていた。

 ひっ、と息を止め、振り返ると、その人物はドアを開け、入ってきた。

 今度は葉山だった。

 いきなり、
「洸、浮気か」
と言い出す。

「は? 浮気?」
と訊き返すと、

「さっき、楽しげに悠木課長と歩いてたろ」
と何処から見ていたのか言ってくる。

「目を覚ませ、洸。
 課長がお前なんか相手にするわけないだろ」

 うっ。

「お前は騙されてるんだっ」

 自分でも疑っていることを口に出して言われると、心臓に悪い。

 固まっている間に、葉山はズカズカと給湯室に入ってきた。

 戸を閉め、洸、と両の手首を握ってくる。

「落ち着いて考えろ。

 課長がお前なんか好きになるはずないだろ?
 お前をいいとか言うマヌケは、せいぜい俺くらいだ」

 うーむ。
 葉山が自分を好きだというのが本当だとしても、ぜひ、お断りしたい、と思える一言だった。

 課長といい、葉山といい、誰よりも私に対する評価が低い気がするのは、気のせいだろうか。
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