わたし、結婚するんですか?
 慌てて店の中に入ると、
「いらっしゃいませー」
とカウンターの中で高らかにおじいさんが言う。

「課長、何故、此処に……」
と言うと、後ろから、おじいさんが、

「悠木さん、彼女かい?」
と笑顔で訊いてきた。

 既に名前で呼ばれているようだ。

「なに常連になってるんですか」

 近所に住んでても、私、なってないのにっ。

 此処の珈琲、くそまずいとか言ってるくせに、と思っていると、遥久は白いマグカップを手に、

「此処のホットミルクは最高だ」
と言ってくる。

「いや……飲んであげてください、珈琲」
と洸は呟いた。

 ほら、そこの壁にも『人生八十年かけてたどり着いた運命の珈琲!』ってビックリマーク付きで書いてあるではないですか。

 そう思っていると、洸の視線を追った遥久もその紙を見て、言ってくる。

「究極の豆を求めて、ブラジルに行き、修行を極めて淹れた珈琲より、インスタントの方が口に合ったりすることもあるだろ」

 おじいさんの人生、全否定か……。
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