わたし、結婚するんですか?
美味しいご飯を作っていただいたので、感謝を込めて、洸が茶碗を片付けた。
……とはいっても、実際に片付けたのは、食洗機様だが。
遥久はソファで会社の図書室で借りてきたとかいう本を読んでいた。
側にぺったり張り付いているチャトランを片手でかまいながら。
なんだか落ち着く光景だな、と洸はキッチンから時折、そちらを振り返り、眺める。
洸の夕方の、変に下がっていたテンションはもう戻っていた。
パンダのエプロンを外し、
「珈琲淹れましたよー」
と言う。
人生八十年かけた究極の珈琲じゃないけど、と思いながら、遥久の前にカップを置いた。
だが、遥久は本に読み耽っていて、……うん、と生返事だ。
しかし、その右手は、チャトランの腹を撫でることを忘れない。
……チャトランくらい私にもかまってください、と思っている自分に気づいた。
ひとり寂しく珈琲を飲みながら、洸は、チャトランと遥久を眺めていた。
すると、唐突に、
「そうだ。
家で思い出した」
と遥久が本から顔を上げ、言ってくる。