わたし、結婚するんですか?
夜、十時を回った頃、遥久は、そろそろ帰るか、と立ち上がった。
本当は今日は早く此処を出たかったのだ。
「じゃあ」
と遥久は、玄関で見送る洸を見、沈黙する。
洸が、なんですか? という顔で自分を見ていた。
「いや、引き止めないのか」
と言うと、
「なんでですか……」
と苦笑いして、洸は言ってきた。
面白くない奴め……と思いながら、玄関を出る。
洸が見送っているのをわかっていて、振り返ってやるまいかと思ったが、エレベーターのところで振り返った。
洸はやはり、まだそこに立っていて、自分を見ていた。
小さく手を挙げると、ほっとしたような顔をする。
……俺を好きなように見えるんだが。
違うのか? 洸。
エレベーターに乗ると、ポケットからそれを取り出した。
鞄に入れていても邪魔にならないような小さなスケジュール帳だ。
びりびりに引き裂かれている。
洸の家のゴミ箱から見つけたのだ。