わたし、結婚するんですか?
 課長、ご友人が居たんですか。

 それは友人の友人とかいう都市伝説的な存在ではなく? と思っていると、

「飴食べる? とか、ガム食べる? とか言うのは、食後でも食べ物の匂いを気にせず、キスしてくれという意味だと――」

「たた、食べないでくださいっ。
 じゃあ、絶対っ!」

 そういう深い意図はありませんっ、と慌てて叫ぶと、ちょうど駐車場に着いたところだったらしく、ハンドルから手を離した遥久は、こちらを見、

「そうか。
 じゃあ、キスしないぞ、絶対」
と言ってきた。

「えっ?」

 思わず、固まってしまった洸に遥久が笑う。

 いやいやいやっ。

 止まってしまったのは、して欲しいとかいう意味じゃありませんからっ、という思いを込めて、大きく手を振ってみたのだが。

 遥久はどういう意図に解釈したのか。

 はたまた、こちらの意思など、そもそもお構いなしなのか。

 洸の座る助手席の肩に手をかけ、キスしてきた。

 ちゅ……駐車場です、此処、と思いながら、ふと見ると、緑あふれる設計事務所の窓から可愛らしいクマのような設計士さんがこちらを見ていた。
< 127 / 368 >

この作品をシェア

pagetop