わたし、結婚するんですか?
 



 課長、先に来てるかなー。

 案の定、出遅れた洸が、急いで、給湯室に向かおうとしていると、誰かが階段の方から腕だけ出して、手招きしていた。

 誰……っ? と思って見ると、その袖口から覗くカフスボタンに覚えがあった。

 いつぞや、洸たちの祖父がお土産にとみんなに買って帰ったものだ。

 男性陣にはカフス。

 女性陣にはイヤリングで、お揃いのデザインだ。

 黒いスクエア型で幾何学模様のように小さなダイヤが埋め込まれている。

 おにいちゃんか? と思い、そちらに行くと、やはり、そうだった。

 章浩は洸の手をつかみ、踊り場まで引っ張っていくと、
「悠木課長、やっぱり、睨んでくるんだよ~っ」
とまた懲りもせず、手を握ってくる。

「……もう睨まれててください」
と洸は兄代わりの男を見捨てようとした。

 誰かが見てたら、どうすんだ? と思いながら。

 まあ、よく考えたら、どうもこうもないのだが。

 社長の従妹ということが広まると、変に気を使いそうなおじさんとか偉い人とか居て、めんどくさいだけだ。
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