わたし、結婚するんですか?






 お昼過ぎ、洸は配り物をしに社内を回っていた。

 課長はなんでおにいちゃんを睨むのかな、と思いながら、二階の渡り廊下を歩いていると、いきなり、誰かに手を引っ張られた。

 そのまま、ひんやりした場所に引きずり込まれる。

 悲鳴を上げようかと思ったが、上げなかった。

 自分の手をつかむその指先で、それが誰なのか、なんとなく察していたからだ。

 渡り廊下にある倉庫に洸を引っ張り込んだのは、遥久だった。

「なんなんですか。
 もう~っ」
と文句を言ったが、遥久は洸の手をつかんだまま、

「いや、ちょうど倉庫から出ようとしたら、目の前をお前が通っていたから、捕獲してみた」
と言う。

「……捕獲しないでください」
と言うと、

「そうか。
 じゃあ、行け」
とあっさり手を放し、言ってきた。

 えええーっ、という顔をしていると、遥久は笑う。

 いや……放してくださったんでいいんですよ。

 ええ、ほんとに……と強がり、顔を背けてみたが、なにも効果はないようで、やはり、遥久は笑っていた。
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