わたし、結婚するんですか?
此処は私の部屋のはずなんですが……
怒濤の一日だったが、仕事的にはいつも変わりなかったので、定時に帰れた。
ロビーで別の部署の同期の子たちと出会って話す。
「うそっ。
行きたい、その店ーっ」
と新しく出来た中華の店の話をしていると、ちょうど遥久が通りかかった。
横を通りながら、ぼそりと、
「……早く帰った方がいいと思うが」
と言ってくる。
何故?
どうしてっ? と振り返る。
通りすがりに、他の人に聞こえない程度に、さりげなく耳許で囁く様子はまるで、手だれのスパイだ。
なにかありそうで怖いので、結局、帰ることにした。
「ご、ごめん。
明日、行こうよ」
「わかったー。
んじゃ、明日ー」
と言って、みんな帰ったり、仕事に戻っていったりした。
そのあとも、コンビニに寄ろうかな、と思ったりしたのだが、
『早く帰った方がいいと思うが』
という遥久の声が呪文のように耳許で聞こえ、洸は慌てて、家まで駆け戻った。