わたし、結婚するんですか?
 しかし、洸は誰かと話しているようだった。

 廊下を歩く位置を微妙にずらして、相手の顔を確認する。

 章浩だった。

 なに楽しげに話してやがる、と笑う二人の顔を眺めたとき、ちょうど自分の真横に設置されていた消火器が凶器に見えた。

 だが、そのとき、こちらに気づいた洸が自分に向かい、笑って手を振ってきた。

 洸っ。
 無邪気な笑顔で、なんて可愛らしいんだっ!

 走り出して、抱き締めたい気持ちに駆られたが、此処は会社だった。

 ゆっくりと歩いていき、章浩に軽く頭をさげると、
「どうした?」
と洸に訊く。

 洸があのキラキラした瞳で自分を見上げて言ってきた。

「課長。
 土曜日、一緒に行きませんか?」

 何処へだ!? 洸っ。

「おにーちゃんのおうちです」

 ……死んでも嫌だな。

「おにーちゃん夫婦はお付き合いで観劇に行っていないので、子どもたちを見ていて欲しいそうです」
< 326 / 368 >

この作品をシェア

pagetop