わたし、結婚するんですか?
 子どもの相手かー。
 あんまりしたことないんだが。

 だが、いずれ、俺と洸の間にも子どもが出来るかもしれないから、予行演習と思えばいいか。

「いいぞ」

「ほんとですか?」
と洸は手を叩いて喜ぶ。

 そこで章浩が言ってきた。

「夕方には帰るから。

 ちょうど洸の好きな店のディナー券をもらってる。
 二人で行ってこい」

「わあ、おにーちゃん、ありがとう」
と子どもの頃のままに喜ぶ洸が、今にも章浩に抱きつきそうで、ハラハラしていたのだが。

 はたから見ている人間には、自分は無表情に見えていたことだろう。

 昔はただ、感情が動かず、こういう顔をしていたのだが。

 最近は、洸に対して過剰な反応をしないよう、無表情を装っていることが多い。

 こちらを向いた章浩に、
「じゃあ、よろしく頼む」
と頭を下げられ、……社内なので、

「はい」
とおとなしく頭を下げ返した。





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