わたし、結婚するんですか?
 




 話しかけたい……。

 職場外で洸に話しかけたい。

 日々、遥久は思いつめていった。

 なにか、洸と話すきっかけを作らねばっ、と思ったとき、頭に、あの雨の日、猫を抱いていた洸の姿が思い浮かんだ。

 洸も仔猫も雨の雫をまとっていて。

 薄曇りの空からわずかに差し込む光にその雫が輝く。

 味気ない帰宅途中の道に、突然、童話の中の風景が現れたような衝撃だった。

 いや、他人の目にどう見えていたかは知らないが、少なくとも、自分にはそう見えた。

 その光景を思い出していた遥久は、唐突に思いつく。

 そうだ。
 猫だ!

 猫を拾おうっ。

 洸のようなとびきり可愛い仔猫をっ!

 そして、その猫を抱いて、洸のところに行くんだ!

 いや、行ってどうするんですか? と突っ込む盛田の声が耳に聞こえてこないこともなかったのだが。
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