わたし、結婚するんですか?
 鍵返してください、と言えばいいのだろうが。

 言う勇気はないし、言ったところで、一蹴されそうだし。

 ……本気で言いたいかと問われると、そうでもないような気もするし、と思いながら、パンフレットを求めてウロウロしていると、遥久が、

「ちょっと来い」
と手招きしてきた。

「え、な、なんですか?」
と洸は思わず、身構える。

 なんだか職場のように叱られそうな気がしたからだ。

 だが、此処で抵抗しても、なにか恐ろしいことが起こりそうなので、警戒しつつもキャットタワーの前に居た遥久の側に行くと、いきなり、腕をつかまれ、膝の上に座らされる。

「な、なにするんですかーっ」
と叫んだが、遥久は動じず、

「いや、お前が記憶喪失だなんだと訳のわからないことを言い出してから、まったくいちゃついてないな、と思って」
と言ってきた。

「いや、だから……記憶喪失なんですよ。
 貴方を好きだったとか、結婚しようと思っていたとか、まったく記憶がないんですけど」
と遥久の膝の上から逃げ出そうとしたが、がっちり肩をつかまれ、逃げられない。
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