わたし、結婚するんですか?
洸のマンションを出た遥久は、振り返り、彼女の部屋を見上げた。
キスしたあとで、真っ赤になって、慌てふためいた洸を思い出し、遥久は噴き出す。
本当に面白い奴だ。
そのまま帰ろうかと思ったが、何故か暗闇で店の前を掃いているじいさんと目が合った。
あの喫茶店のじいさんだ。
そのまま通り過ぎようかと思ったが、何処までも何処までも視線が合う。
いや、自分が気になって振り返るから悪いのだが。
っていうか、こんな暗闇で店の前を掃いてるとか、実は霊なんじゃないだろうな、このジジイと思いながらも、根負けして引き返した。
「なにがお薦めだ?」
と訊くと、じいさんは、
「喫茶店だ。
珈琲に決まっとろう」
と言いながら、カランコロンと懐かしい音をさせて、ドアを開けてくれる。
最早、逃げられんな、と覚悟しながら、遥久は、
「……じゃあ、珈琲以外で」
と注文した。