わたし、結婚するんですか?
翌日、洸が会社の廊下を歩いていると、物陰から誰かが手招きしていた。
なんだ? と思って近づくと、章浩だった。
「どうしたんですか? 社長」
そう訊いた洸の両手を章浩はつかみ、ダンスでも踊るかのように、そのままの体勢で後退していった。
なんなんだ、と思っている洸を近くの倉庫に引っ張り込むと、何故か顔色の悪い章浩は、声をひそめて、訊いてきた。
「……洸。
お前、なにか心当たりはないか?」
そう言ったあとで、章浩はなにかに怯えるように、周囲を見回すと、更に声を落とし、訊いてくる。
「なんでだかわからないんだが、総務の悠木課長が俺を睨んでくるんだよー。
お前、人事で部署が近いだろ?
なにか気づいたことはないか?
最近、様子がおかしいとか」
「いやー、悠木課長は常におかしい気がするんですけどね」
と敬語を崩さず言うと、章浩は、
「まあ、確かに変わった男だが。
仕事は出来るし、真面目だし、男前だし。
俺はあいつを買ってたんだが」
と言ってくる。