呼び名のない関係ですが。
高遠さんの唇に浮かんだ笑みが冷たくて、うすら寒い気持ちになる。

このひとも横田に、なにか迷惑を掛けられたひとりなのかもしれない。

もしかして、復讐じみたことをするチャンスを与えてしまったとか。

「高遠さん……誰かに何か言うつもりなの?」
「まさか。単なる例え話です。でも三峰主任がここに誰がいるのか確かめたのは、口止めをしたかったからっすよね? それもあんなひとのために」

不誠実で調子が良くてひどい、あんなひとだ。

それでも不幸を願っている訳じゃない。

私じゃない誰かと幸せになるのだとしても。

それともこんな感情自体、ひとには偽善的に映ってしまうものなのか。

どんな返事をしても奇麗事に聞こえる気がして、私は口をつぐんだ。

「……俺が慰めましょうか、あなたのこと」

少しの沈黙のあと耳にしたのは、高遠さんの口から出たとは思えない提案だった。

……慰めるって、ドウイウコトデスカ。

「言ってる意味が分からないんだけど」

弱みをにぎられたくない一心で、平坦な調子を装ってしまう。

慰めが必要なくらい落ちて見えるなんて、思っていたほど上手く隠せてなかったのか。

「横田さんが言ってた通りか、イロイロ確かめてみたくなったんで。そしたら三峰さんも、俺がどこかでペラペラ喋ったりするかしないか、見張れていいでしょ」

何のことはなかった。

ようは高遠さんは横田の罵り言葉に、くだらない好奇心を抱いたってことで。

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