呼び名のない関係ですが。
慰めるって言葉で、頭を撫でられてる想像した自分が恥ずかしい。

「……高遠さんのこと、何だか思い違いしてたみたいね。ちょっと軽めの爽やかなひとっていうのが女性社員達の総意だったのに」
「俺は元々この程度の人間なんで、勝手な幻想なんか持たれたって迷惑ですよ」

私の嫌味も軽くスルーする彼に唖然とした。

「……私にどうしろって言うの」

苛立たしさから自分をつくろっていた薄いメッキが、ぱきぱきと剥がれ落ちていきそうな気がした。

「そうですね」

高遠さんは立ち上がり私の顔を覗き込むと、食えない笑みを浮かべた。

「とりあえず飲みにでも行きますか」
「あなたと私が?」
「そっ、親睦をかねてってことで。今からだと、速攻で仕事を片付けても八時過ぎますかね。まぁ、金曜日なんだから、少しくらい遅くても平気っすよね」
「……そんな気分じゃないんだけど」

つらつらと勝手に決めて話し始める高遠さんに冷たい視線を送っても、なんの効果もなくって。

結局、彼のよく行くという串焼きの店に連れて行かれたのを皮切りに、週一から十日に一度位のペースで呼び出しを受けている。

『……慰めましょうか』と囁かれて文字通り慰められた今は、ぬるま湯につかっているみたいな気分だ。
ただ今は心地は良くても、いつかは湯あたりしてしまうんじゃないかと、最近はそんなことを考えてしまう。

高遠さんの気まぐれで日々先送りしていたものも、受け取らなくちゃいけなくなる日がそのうち来るはずだ。

それなのに、ひとりになるのが怖いとか。

……全く私らしくない。
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