呼び名のない関係ですが。
実際のところはテツどころか、自分が入れる物件を探すのも大変な状態だった。

―― ふたりの邪魔だけはしたくない。

そんな私の焦りを悟ったかのように、節分の日の朝、私のベッドと机の隙間にうずくまったまま、テツは天寿をまっとうした。



「起きてくださいよ、朝食が冷めるんで」

低い声が耳元で響いて、ようやく意識が浮上してきた。

布団を抱いて漂うコーヒーの匂いを吸い込んだ途端、耳たぶに痛みが走る。

「イタッ」
「……おはようございます」

取り澄ました顔で朝の挨拶をする高遠さんは、顔にかかった私の髪の毛を撫でつけた。

いや、撫でつけるなんて言うときこえがいいけれど、髪をグリグリとされていてまるで私のほうが猫のような扱いだ。

覗き込む彼をぼんやり見上げると、からかうような笑顔を向けられた。

「主任、まだ寝ぼけてんですか?」
「耳…痛いんだけど」

耳たぶがジンジンしてるのは噛まれたせいのような気がする。

「もっと甘いほうが好みなら、もう少し考えてもいいっすよ」

覆いかぶさるように高遠さんの唇がおりて来て、異論を唱えようとした私の口を塞いだ。

その唇は言葉よりも甘くなくて、寝ぼけた目を覚まさせるのにしては濃厚だった。

「ん…んっ」

酸欠になる寸前、彼の胸を両腕で押し戻した。

「し、死ぬからっ」
「キスで死ぬ奴なんていませんよ。つーか鼻で息して下さいよ」
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