呼び名のない関係ですが。
憎たらしい笑みは、普段会社で見せているような年齢よりも落ち着いたものではなくて、言うなればいじめっ子みたいな悪い顔だ。

ここにいる高遠さんは、皆が素敵と絶賛する『高遠颯哉』とは別物でその顔が少し可愛いと思っている自分がいる。

この感情が厄介なのだ。


彼は夕べ遅く、濃いお酒と香水の匂いを身にまといつつ、この部屋へやって来た。

私はといえば、先週に続いて今週も高遠さんからの呼び出しがなかったので、昨日は久々に映画をレンタルして帰って来たのだった。

インターホンが鳴ったのは、一本目の陽気なラブコメを見終っても眠くならなくて、飲めもしない缶酎ハイを舐めながら二本目の洋画を見ている途中のころ。

ネクタイを無造作に外しながら『金曜の夜に接待なんてありえねぇ』と、いつもより雑な口調でブツブツと言うのが可笑しくて笑うと、何がツボに入ったのかいきなり絨毯に押し倒された。

その激しさに流されて、散々泣かされたところで私の記憶は途切れている。

その私が今ベッドの上にいるということは、彼がここに連れて来てくれたということだ。

「……昨日はすみませんでした。かなり飲まされたもんで、タクシーに乗った記憶はあるんですけど」

高遠さんの吐息が肩口に寄せられ、彼のサラサラした髪が首筋を撫でる。

ああ、さっき夢心地で感じた感触は、これか。

納得したところで、眠っているあいだに触れられていたことに気が付いた。
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