呼び名のない関係ですが。
ベッドの上でひとり、ぐしゃぐしゃにもつれている髪の毛を手櫛で梳かしながら、自分を戒める。

一体、何を期待してるのか。

過ごす時間が長くなるほど、一緒にいるのが怖くなる。

何年か付き合っていた横田でさえ、この部屋に来たことは数えるくらいしかない。

彼の家のほうが会社に近いこともあって、足を運ぶのはもっぱら私のほうだったということもある。

でも、それよりもひとり暮らしをしはじめてから、自分以外の気配を感じるのが苦手になった。

どれほど大切に想っていても、離れなくてはいけない場合はいくらでもある。

父みたいに。テツみたいに。

それなのに今、高遠さんが私のテリトリーに侵入することを許しているのは、一体どんなつもりななのかと、冴えない頭で考える。


顔を洗ってから居間に行くとコンロの前にいる高遠さんから「勝手にお皿を使わせてもらいましたよ」と、声を掛けられた。

居間といってもキッチンと一緒になっている六畳間だ。

だから上背のある高遠さんがひとりいるだけで、部屋がやけに狭くみえる。

彼はフライ返しで何かをひっくり返し焼いているようだ。

バターとほのかに甘い香りがした。

いつもひとりで使う小さなテーブルのうえには、すでにコーヒーとベーコンエッグ、彩りの良いサラダが二人分、所狭しと並んでいる。

私はパジャマのままテーブルの前に置いてるソファの片隅に座って、ぼんやりとそのご飯を見つめた。
< 16 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop