呼び名のない関係ですが。
問う間もなく彼の親指に口の端をざらりと撫でられ、驚いた私は「ひゃっ」と奇妙な声をあげてしまった。

「何っ? いきなりっ?」
「シロップついてました。……あ、やっぱメイプル甘いな」

シロップのついた親指を舐める高遠さんの激甘すぎる行動は、昨夜の官能の記憶を呼び起こす。

馬鹿みたいに動揺丸出しで変な顔をしている自覚のあった私は、大きなマグカップを手に取りコーヒーを必死に覗き込んだ。

ただでさえ、こうやって何気ない朝をふたりで過ごすとか、慣れていないのだ。

……五つも違うのになぁ。

年齢が人生経験と比例している訳じゃないのは分かっているけれど、高遠さんの甘い態度になかなか慣れられない。

高遠さんみたいなひとは、学生時代からこんな風に女性を甘やかして来たんだろう。

まるで呼吸するみたいに。

その姿を想像するのはビックリするほど簡単で、昨夜から変なテンションに跳ねていた私の胸の鼓動も、ようやく平常運転になった。

「この時間でのんびりしてるってことは、仕事入れてないんですよね? 今日は暇ってことですか」

休日の過ごし方って、私だって仕事以外することがない訳じゃない。

何度か仕事を口実にして高遠さんの誘いを断ったことはあるけれど、今日は正直に話した。

「……休日出勤する気はないけど、暇じゃないです」
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