呼び名のない関係ですが。
高遠さんにまたもや手を引れて、店員さんに案内された間仕切りの前まで連れていかれた。

彼は、間仕切りのなかのひとに「よう」と、雑な挨拶をした。

誰がいるのか知らない私は、高遠さんの背中越しに恐る恐るなかを覗く。

四人掛けのテーブルに、女性がひとり。

その彼女はすでにビールジョッキを片手に、飲みはじめていたらしい。

「遅っ」とひと言だけ言うと高遠さんをみることなく、ジョッキの中身が消えていく。

彼女の喉元からは、グビグビという音が聞こえてきそうな勢いだった。

凄い飲みっぷりだな、とまじまじと彼女を見たとき、彼女のほうも高遠さんの後ろにいる私に気が付いたのだろう。

視線がかち合った瞬間、彼女はゲホゲホゲホッと盛大にむせはじめた。

「汚ねぇな~」

高遠さんは屈みこむと、むせた彼女の背中を何度かトントン叩いた後で、おしぼりを渡す。

次に彼女がこぼしたテーブルのうえのビールを他のおしぼりで綺麗に拭った。

私が手出しするまでもなくて、かいがいしく世話をする高遠さんの姿を気が利かない人間のように、ただ突っ立て見ているだけだ。

彼女の顔には見覚えがあった。

記憶が確かなら、このあいだ林田さんと駒形さんにみせられたスマホの画像の彼女だ、と思う。

「わぁっ、颯哉ゴメンッ。そんなつもりじゃなくってっ」
「潤哉もお前もひとを使いやがって。……三峰さん、こっち側は綺麗なんでどうぞ」
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