呼び名のない関係ですが。
高遠さんは彼女の向かい側の席に座ると、ポンッと椅子の背を叩いて私にも座るように促した。

「三峰さん、ほら、こいつ。俺の幼なじみ」

前に話したでしょ、と言いながら、高遠さんはメニューを眺め始めた。

この展開についていけずに固まってる女ふたりを無視して。

「あ、あのう」

私のほうに顔を向け、遠慮がちに話し掛けようとする彼女の頬は心持ち赤い。

「なんか、ごめんなさい。てっきり、暇だと思ってて。っていうか、まさかお邪魔な感じになっちゃうとか」

しどろもどろな言葉が続き、彼女の顔はさらに朱色が広がっていく。

喜怒哀楽の分かりやすいひとなんだ、と眺めていると、隣からは大きな溜息が聞こえた。

「まさにそんな感じってヤツだよ。潤哉もお前が心配だからって、飲み過ぎないように自分が行くまで見張っとけってよ。つーか、それなら家で待てばいいだろ? 何で店よ?」
「そ、それは~。……この間も付き合わせちゃったじゃない? なんで、お礼というかお詫びというかしようって潤哉さんと言ってて」
「はいはい。そりゃ、どーも」

高遠さんは棒読みの返事をしながら胸ポケットを探り、煙草をくわえた。

「本当にすみませんでした。あのぅ怒ってます?」
「当たり前だっつーの」

幼なじみ彼女は私の目を見て話しているのだけれど返事をするのは高遠さんで、結局のところ会話の波が私まで届かない。

とうとうそのことに焦れた彼女は「颯哉じゃなくて、そちらの方に聞いてるのっ。そしてあんたは、きちんと紹介してよっ」と、キレ気味に高遠さんを睨んだ。
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