呼び名のない関係ですが。
「あれは」と言いかけて、私は口を閉じる。

交換条件があったなんて言える訳もない。

あのときにふたりの関係が変わってしまったなんてこと、誰にも知られたくはない。

私の沈黙に焦れるように、林田さんはため息を吐いた。

「そっかぁ、主任も知らないのかぁ。じゃ、コマちゃんが見かけたのって誰なのかな」
「や、でもっ、このひと多分、彼女だと思うんですけどっ。なんか雰囲気が親密っていうか、距離が近いっていうか」
「コマちゃん、それはそれでやっぱりショック~」

出来の悪いコントみたいなふたりを無言で見つめると、林田さんは握っていたスマホを私の胸元へぐいぐい押しつけてきた。

駒形さんによれば先週の金曜の夜に友達と行ったカジュアルイタリアンの店で、偶然見かけて撮影したのだという。

「……これって、隠し撮り?」

芸能人でもあるまいに、プライバシーの侵害もいいところだと思いながらも、ついその画像を凝視してしまう。

スマホに保存されている画像の、よく知った横顔がいつになく優しく見えるのは、確かに気のせいじゃないみたい。

こんな顔もするんだ。

「コマちゃんからラインが来たから、写メってって頼んだんですぅ。だって、知りたいじゃないですか」

林田さんは口もとを膨らませ、私たちは悪くないアピールをする。
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