呼び名のない関係ですが。
駒形さんもコクコクと頷いて「だって、なんか、すごく気の置けない雰囲気で、距離感が違うって感じで」と、好きなアイドルのプライベートを垣間見たように頬を赤らめた。

何でも知りたいって、好きだから?

とてもじゃないけれど、そんな風には考えられそうにない。

相手が与えてくれるもの以外を欲しがるなんて。

「やっぱり、彼女なんですかね~。三峰主任はどう思います?」

「……さぁ? プライベートは聞いたことないから。仕事の話じゃないのなら、そろそろ席に戻らせてほしいんですけど」

話を打ち切るように体を反転させると「三峰主任、ホントに冷た~い」と林田さんの口から不満が漏れた。

冷たい、か。

林田さんの尖った唇も爪のさきと同様に、こんなときまで女の子らしい、と心のなかで苦笑してしまう。

でも、そんな気持ちはおくびにも出さず、もう一度彼女たちを振り返る。

「その書類は早めに必要なので、そのつもりでお願いします」

いつも通りの顔を作って、喉の奥に纏わりつくようなイライラを飲み込んだ。


自分の席に戻り、朝一番にし損ねたメールのチェックをしながらも、心に宿ったものは中々消えそうにない。

画像ひとつ見ただけで思いのほか反応している自分に、舌打ちをしたくなった。

割り切った関係が一番相応しい、と思っている。

高遠さんの気まぐれに振り回されて、ズルズルと一緒にいるこの数ヶ月だ。

とは言っても、彼のせいだけにするのは正直ではないかもしれない。
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