呼び名のない関係ですが。
不器用な人間ですから。

かの往年の俳優のセリフが頭をよぎって、失笑した。

……ほんと、不器用すぎて最後まで上手くいかない。

自分の気持ちに蓋をして、ベンチに座る彼の前で立ち止まる。

高遠さんは入社二年目にして、すでに社内の独身男性のなかでも人気のひとりだ。

190㎝近い長身とキリリと整った顔。

でも笑うと途端に甘さが加わり、人懐っこく見える。

容姿だけでも敵を作りやすそうなのに、去年がルーキーイヤーだったとは思えないほど仕事もそつなくこなすものだから、同僚からは多少のやっかみも買っているらしいと、林田さんが喜々として話していたのを思い出す。

「お疲れ様っす、三峰主任」

彼は拍子抜けするほど、柔らかい笑顔を向けてきた。

「……高遠さん」

私は戸惑いを隠して、そっと彼の座っているベンチに浅く腰掛けた。

彼から吐き出された紫煙がゆっくりと、薄暗い空へのぼっていく。

「……先客がいるなんて思ってもみなかったから。休憩の邪魔したみたいで……悪かったわ」

高遠さんのライターのガシャリとした音でさえ私の耳に届いたのだから、あんなボリュームたっぷりの罵り言葉が聞こえていなかったら奇跡としか言いようがない。

げんに今、彼から容赦のない、突き刺さるような好奇の視線を受けている。

それに素知らぬふりをして「何か?」と応じたのは、この緊張を悟られたくなかったからだ。

「いえ。謝られるとは思っていなかったんで」
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