呼び名のない関係ですが。
その意味が分からなくて、どういう意味か、と問えば、高遠さんは皮肉っぽい笑みを口もとに浮かべた。

「男なんて股かけして付き合ってる時点で、それなりの想定してる筈ですよ。それもひとりは同じ会社の同僚で片方はどこかのお嬢さまなんて、バレバレ要素しかないっていうのに。それをあんなことまで言われても黙って流してやるなんて、どれだけ出来た女のつもりなんすか」

これって馬鹿にされてるのか、私。

畳みかけるような言葉を紡ぐ高遠さんの勢いに、最初はあっけにとられていた。

でも、なんだろう。

こんな短時間のうちに罵られ、追い撃ちをかけるように後輩にまで馬鹿にされる、今日はなんて日なんだろうと思うと、それまでに感じなかったくらいの憤りがジリジリと胸のなかに膨らんで来た。

それでも、この苛立ちを悟らせたくない私は声を潜めた。

「何? その『出来た女』って」
「そんな風に見えるってことですよ。それとも社内でも秘密にしてたってことは、合意のうえだったんですか? 誰もおふたりのこと知らないっすよね。バレてたら今頃、噂好きのお姉さまがたの餌食だろうし」

……なんて痛いところを突くの。

そんなことは高遠さんに関係ない、と言い掛けたところで、彼は意味深に私を見据えた。

「もちろん関係なんてないですけど、でももっと言わせてもらえば、横田さんが破談になろうが左遷になろうが俺の知ったことじゃないんですけどね」
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