俺様社長の重大な秘密
こうも開き直られては、伊織もどうしていいかわからなくなり、次の瞬間には吹き出していて。

幸は驚いて目を開ける。

「…その辺にいる女とは訳が違うね。社長が目に止めるのもわかる気がする」

「…え?え???」

幸は分からないと言った様子で伊織を見つめる。

「…止めた。怖がりもしない、怯えもしない。返って開き直られるんじゃ、ヤル気もうせる」

「…」

困惑する幸を引っ張り起こした伊織は、幸の乱れた衣服を整えて、深々と頭を下げた。

「…行き過ぎた事をしたと思う。悪かった」
「…いえ、あの、思い止まってくれて、助かりました」

ホッとした幸は、急に恐怖に襲われ、手が震えた。

緊張している間は気が張っていて、とにかく無我夢中で。

でも、安心したら急に震えが止まらなくなった。

それに気づいた伊織は、ハッとして、幸の手を握りしめた。

「…ホントにゴメン、怖かったよな」
「…だ、大丈夫ですから、離してください。少し、席を外します」

ひきつる顔を何とか笑顔にし、幸は伊織の手をほどき、部屋を飛び出した。

その時だった。

誰かと思いきりぶつかった。

「…幸、どうした?何かあったのか?」

ちょっと驚いた顔をして、そう言ったのは。

「…社長…」

涙目の幸を見て、楓のなかで、何かが切れた音がした。
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