俺様社長の重大な秘密
二の腕をガッシリと掴まれた幸は、困惑の表情で楓を見上げた。

「…そんなに俺が嫌か?」
「…そういうわけじゃ」

嫌なわけではない。

たが、嫌悪感は否めない。見ず知らずの男に、こうやって腕を掴まれるのはいかがなものかと。

「…社長」
「…なんだ?」

「…クビにして下さい」
「…幸」

「…入社して間もない私が、突然こんな花形の秘書課に異動なんて、誰が認めますか?ただでさえ社長はオモテニなるのに、周囲の女子社員に何を思われるか、言われるか、考えただけでゾッとします。社長はいいかもしれませんが、私の事は一切考えておられません。私がどんな目に遭おうと、社長には関係ありませんよね」

そう言った幸は、悲しげな笑みを浮かべた。

…確かに、楓は幸を傍に置きたい一心で、周囲の女子社員の事など眼中になかった。しかも、その女子社員たちが、幸に与える影響は凄まじいものに違いない。

「…すまない」

楓は素直に謝罪した。

「…今さら元の部署に戻ることは不可能だと思いますので、先程言ったように、クビにしてください。…一からやり直せば良いことなので。では、「…いい加減にしろ」

静かに楓の怒った声が聞こえた。

その静かな怒声に、幸も、西園さえも息を呑む。

こんな時の楓がどれ程怒っているのか、西園は知っている。だから、直ぐ傍にいる幸が心配になって、殴り飛ばされるのを覚悟で止めに入ろうとした。

「…社長」
「…黙れ西園」

二人の目の前で、西園は止まった。
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