臆病者で何が悪い!
「そ、それにしても、生田が恋愛モノ好きだったなんて意外」
慌てて話題を変え、視線を空になったジョッキに移す。とりあえず視線を生田から離し、心を落ち着ける。
「俺、恋愛ものは全然観ないよ」
「へ?」
間の抜けた声と共に生田を見る。
「人の恋愛に興味ないし」
じゃ、じゃあなんで――。
「でも、隣であんたの百面相を見ているのは非常に興味深かったな。楽しかったよ」
「なっ――」
意地の悪い満面の笑みに、不覚にも胸の奥がやられる。
さっきから、私、面白がられてる――?
それにいちいち動揺させられている自分に悔しくなるけれど、上手く反論も出来ずに結局俯くだけだ。
「まあ――」
隣から聞こえる生田の声に、今度こそその手には乗らないぞと顔を背ける。
「あの映画の結末のようなことにはならないようにしてくれよ?」
でも、その声が意地悪いものではなくて思わず顔を上げてしまう。生田はさっきの満面の笑みとは違う、ほんの少し口角を上げただけの笑みだった。
結末――。光太郎に愛された美紀は、光太郎を失って初めてその愛に気付く。
どれだけ自分が愛されていたのか、守られていたのか。そして、自分自身も彼を深く愛するようになっていたのか。美紀は、一人叫ぶように泣いていたっけ。
生田の言葉の意味することを、はっきりとは私の中で消化できない。
自分をどの立場に置くのか。それすらも曖昧な、それは私にとってまだまだ未成熟な感情だった。