臆病者で何が悪い!
それからはお互い自然と酒が進んだ。それと共に私は、心も身体も軽くなって行った。少しずつ薄れてはいた緊張も、もはや完全になくなっていた。こうして一緒にお酒を飲んで、アルコールが入っているから唇も滑らかになって。会話も一向に途切れることがなく。どう考えてみても、この時間がとてつもなく楽しかった。
「一つ、聞いてもいいですかっ!」
ジョッキを片手に、もう片方の手を勢いよく挙げる。完全に酔っ払いだ。その意識はある。
「なんだ」
こちらに身体を向けて座る生田が頬杖をついて私を見ている。
「だいたいですね、私のこと好きって言ったはずなのに、なんだかそんな感じしないんですけど。会話とか口調とか、会議みたいだし。そうかと思えば冗談みたいなこと言って。それに――」
ジョッキをテーブルにどんと置いて、生田を見た。
「特に、昨日の帰りなんて、生田はずっと難しそうな顔して黙ってたし」
酔ってなきゃ、こんなこと言えないよ。頭のどこかでそう分かっている。
でも、アルコールのせいにして勢いのままに言えてしまう。
「……あぁ」
「ん?」
何? その表情。
珍しく生田が、困ったような顔をしている。いつもいつもこちらばかりが動揺させられているのだ。今は生田を攻める千載一遇のチャンスかもしれない――!
「どうして? どうして? 私、経験が乏しくてわかんなーい」
いちいち声が大きくなっている。仕方がない。私、酔っ払いなので。
「うるせーな。俺だってな、慣れないことをして大変だったんだ」
「――え?」
生田が口元を手で隠しながら、私から目を逸らす。
「女に面と向かってあんなストレートなこと言ったことねーんだよ!」
そう吐き捨てるように言うと、生田がジョッキに半分以上残っていたビールを一気飲みした。
え? それってもしかして、この男が照れてたってこと? それであんなにしかめっ面だったの――?
言葉もなく、ぱちくりと目を瞬かせることしか出来ない。
「勢いのあるうちはいいけど、我に返ると恥ずかしくなるだろうが。って、何を言わせてんだ」
焦ってる。生田が、焦っている。