臆病者で何が悪い!
(……職場の人に知られたくないのは分かった。職場の人の中に同期は入るのか?)
同期は同期でやっかいだ。あれやこれやと騒ぎ立てられるに決まっている。
(まあ、別に、俺は構わないけど。どうせ、俺は同期に余計なこと言っちゃってるしな)
そう言えば――!
『俺が内野に強引に迫り過ぎて困らせていたんだ。だから気にしないで飲み会続けてくれ』っと言って出て行ったのだと希から聞いたんだった。
「それ、希から聞いたよ。なんであんな嘘ついたのよ」
(嘘でもないだろ?)
「それは……」
(俺が一方的に迫ってるだけだってことにしておけばいい。俺は、誰からどう思われようとまったく構わないから、アンタがしたいようにすればいい)
それ以上、何も言えなくなる。
だけれども、私の話はそれでは終われないから困るのだ。
「もう一つなんだけど……」
(まだ、何かあるの?)
明らかに、生田はこの話を終わらせたがっている。
「生田が同期の前で言った言葉で、京子から聞かれちゃったの。『生田と付き合ってるのか』って。その時は付き合っていなかったから、『付き合っていない』って答えちゃったんだ……」
(京子って?)
生田の抑揚のない声が返って来た。
「え? 京子だよ。同期の香川京子」
(ああ……。香川だって同期だろう? 隠したままでいたいんじゃないのか?)
京子の生田に対する感情の詳しい事情は私の口からは話せないけれど、彼女に嘘をついたままでいいのかそれを考えると心苦しいのだ。
(――なんだかよくわからないけど)
私が答えられずにいると、生田がふっと息を吐き言った。
(俺は、はっきり言って周囲の人間はどうだっていいんだ。俺が気に留めるのはあんたのことだけだから。だから、内野がやりやすいようにしてくれればそれでいいよ)
その言葉に、私は何故だか分からないけれど自分が恥ずかしくなった。
「……分かった。ありがとう」
私のやりやすいように――。そう言った生田の想いだって、一体私はどれだけ理解出来ているのだろう。