臆病者で何が悪い!


日々の仕事の忙しさから、京子と話をすることもなく、平穏な毎日が過ぎて行った。

生田は毎日、夜にメールをくれる。
帰宅が深夜に及ぶにこともあり、電話では話せないからだ。
私より帰る時間が遅くなることが多い生田は、いつも帰り道にメールをしてくれているんだろう。欠かすことなく、毎日だ。

『今日も疲れた。でも、内野の顔をいつでも見られるから楽しいよ』

とか、

『今日もまた、あのあんぱん食ってたろ? 本当に好きだな』

とか、

『早く、週末にならないかな。今週は、また何をやって内野を苛めよう?』

とか。

世の女の子って、こんな風に付き合ってもらえていたんだ。

友達の惚気話でしか知らなかった。

前のあの男は、用件以外のメールを送ってきたことはなかったから。

生田は、職場では今までと変わらず――というか、私のことを考えてなるべく接しないようにしてくれているような気もする。私が、焦ってしまうのをきっと分かっているのだ。

その分だけ、二人で会う週末は、思いっきり私に意地悪……いや、恋人扱いしてくれているんだと思う。
歩いている時は、必ず手を繋ぐ。
噂の恋人繋ぎ、というものも初めて経験した。あれは、少々照れくさい。なんだかんだで、ほとんどのことを生田がやってくれている。

それはまるで、自分が姫か何かになったのかと勘違いしてしまいそうなほどに。

それでいて、私にいらぬ緊張をさせたり気を使わせたりしないように、以前のように同期の『内野』として扱うことも織り交ぜたりして。

そして、深く何かを要求してくることもない――。

土曜日に二人で出かけて、その後は居酒屋に行く。そんなデートコースが出来上がっていた。

その距離感が私には心地よくて。自分の感情やまだ解決できていない疑問と向き合うことを忘れ、目の前の生田から与えられる楽しさをただ受け取っていればよかったのだ。


< 107 / 412 >

この作品をシェア

pagetop