臆病者で何が悪い!
「……今日、うちに来る?」
11月中旬を過ぎて、少し遠出をして紅葉を見に行った帰りだった。
当然、そのままいつもの居酒屋に行くのだと思っていた。
だから――。私は、一瞬言葉に詰まってしまった。付き合い始めてそろそろ一か月。まだ生田の部屋には行っていない。もちろん、自分の部屋にも呼んだことはない。
ここで答えに詰まることで、恋人であるはずの生田がどう思うのか。もちろん、他の人の場合なら分かるのだ。でも、自分がその当事者になると、てんで分からなくなる。
「……なに? 心配してるのか? 襲われるかもって」
「べ、別に、そういうわけじゃ」
生田は笑ってそう言った。
「俺、来週からおそらくまともな時間に帰れなくなる。土曜も休めるか微妙だし。だから、今日はゆっくりしたいなって、それだけだよ」
いたって普通の会話をしているように、その口から出される言葉。
私、付き合って一か月も経つ人に何を言わせているんだろう。
大丈夫。別に、生田の家に行くくらい、どうってことないじゃん。それに、以前一度行ったこともある。あの時だって平気だった。
――あれは、付き合う前だったけどね。
すかさずそんな声がどこからともなく聞こえて来たけど、すぐさま振り払った。
「生田の係、来週大変そうだってうちの係長も言ってた。そうだね。行こうか」
声が上擦った。気付かれていないといいけれど。私は一体、何に怯えているのだろう。
「じゃあ鍋でもやるか。何鍋が好き?」
生田が特別なリアクションをするでもなく、そう聞いて来た。そのことにどこかホッとして、私は笑顔を向けた。
生田の家の近くのスーパーで買い物をして、二度目となる生田家への訪問を果たした。
あの日見たままのとおり、すっきりと片付いた部屋。シンプルイズベスト。まさに、そんな部屋だ。
「生田、料理まで出来るの?」
私だって、そこそこは出来る。でも、包丁さばきとか手際の良さとか、私の比じゃない。結局手出しできなくなった。
「大学の頃から一人暮らしだからな。気付いたら出来るようになってた」
キッチンに並んで立ってはいるものの、私は横からのぞいているだけになっている。
慣れた手つきで、あっという間に適度な形に切られた野菜が大皿に並べられて行ったその後は、なんと。お手製の鍋のスープを作り出した。私なら、売っている『鍋のスープ』を買ってしまう。