臆病者で何が悪い!


「生田、料理人にもなれたかも」

「退職したら、店でも持つか」

この人、絶対一人で十分生きて行けるよ――。

心の底から感心していた。

結局、準備のすべてを生田にさせて、鍋を二人で囲んでいる。

「生田って、出身どこだったっけ」

買って来た缶ビールで乾杯した後、せめて鍋奉行くらいはさせてもらおうと菜箸を振り回している。

「お、おい。そんなやみくもに混ぜるな。もう少し時間が経つまで、待って」

早速止められる。だって。何かをしていないと、いろんな方向に意識が飛んで行っちゃいそうなんだもん。部屋に2人きりだなんて、付き合い始めて初めてのこと。いろいろ意識してしまうのだ。

「もういいから。美味しい鍋、食べさせてやるからいい子で待ってろ」

あっと言う間に菜箸を奪われた。

いい子って……。子供じゃないんだから。

ぶつぶつ心の中で呟きながら、ビールを口にした。

「で、何の話だったか? ああ、俺の出身?」

「そう」

考えてみれば、私、本当に生田のことよく知らないんだ。

「浜松。静岡の」

そう言いながら、生田が私のお椀にちょうどいい頃合いの具材を綺麗に入れてくれた。

「そうだったね。自己紹介の時、そんなようなこと言っていたっけ」

もう四年も前のことだ。採用されたばかりの頃、新人は自己紹介をさせられた。そのことをすっかり忘れていた。

「内野は、東京の青梅だろ? それで、M大学の政治経済学部の出身」

「え……?」

「自己紹介の時にそう言っていた」

生田と直接そんな話をしたことはなかった。自己紹介の時の記憶をちゃんと持っていてくれたんだ……。そのことに少なからず驚く。

「わ、私だって覚えていることもあるよ。生田は、東大の法学部!」

それなら私だって知っている。

「まあ、キャリア組はだいたい東大だからな」

「そんなこと……あるか」

私が素直に項垂れると、生田が笑った。

「別にいいんだよ。どうせこれからいろいろ知って行くんだし。ほら、それより冷める前に食べろよ」

優しく笑ってくれるから。こうして何でも許されるから、私はつけあがるんだ。自分の身の程も忘れて――。

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