臆病者で何が悪い!


「また、明日職場でな。今日は、本当にありがと」

玄関先で靴を履き終えた生田が私に向き直って、優しく言った。
もうさっきから、意味不明の胸の苦しさでどうにかなりそうで。

「あの、あのねっ」

何かを言わずにはいられなかった。

「や、優しくしてくれて、大事にしてくれて、ありがと――」

って、私は一体何を言っているんだ――!
そんなことが言いたかったんだっけ?

焦ったあまりに、またとんちんかんなことを口走っていた。違う。何かが違う。

「……バカだな。別に、俺はそうしようと思ってしてるわけじゃねーよ。勝手にそうなってるだけ。それが、好きってことだろ?」

じゃあ、私は――?
私の気持ちはどこにある――?

答の出ない問いばかり。
答が出ないのか、出したくないのかーー。

いつからか、自分の心を防御することだけに一生懸命だった。そうやって生きて来て大人になったら、私の心は鉄壁の守りに固められ、大事に大事に鋼鉄の塀に覆われていた。
どうしてもその塀を壊されたくなくて。壊されることが怖くて、また一つ新たな塀を建てて行く。
自分の心の守りを固めるばかりで、外の景色を見ていない。それどころか、守り過ぎた心は、何を感じているのかさえ知ろうとしない。

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