臆病者で何が悪い!
世間は気付けば師走になっていた。一年もあと少しで終わろうとしている。
「今週末、いよいよ遠山の結婚式だよね」
定時を過ぎた頃、隣に座る田崎さんがぽつりと言った。
「そうですね。田崎さんも出席なさるんですよね? 遠山が、田崎さんには世話になったってしきりに言ってましたよ」
「そうそう。披露宴から二次会まで呼ばれてるよ。でも、僕の知り合いはほとんどいないから少し緊張するけど。だから、内野さん、当日はよろしくね」
そう言えば、遠山もそんなようなことを言っていた。
でも、希がいるなら安心だっていう話になったはず――。
「ええ、もちろん。でも、生田も行きますし、それに、希もいますよ……ね?」
それくらいなら言葉にしても大丈夫だろう。そう思って田崎さんに言ってみた。
「生田、そうか。生田も遠山の同期だもんね」
え……っと。希は……?
その表情をうかがってみるも、あまり何も読み取れない。
「じゃあ、生田と内野さんの二人に相手をしてもらおう」
いやいや、だから。希は――?
「内野さんってさ」
「は、はい」
田崎さんの声のトーンが少し変わる。
「服装で、結構イメージ変わるよね」
「え……?」
何の話だろう。よくこの会話の方向が見えない。
「この前一緒に夕飯食べに行った時に思った。いつもと違う服装してたでしょ?」
一体、何が、言いたいの……?
身体に嫌な汗が滲み出る。
あの時、何かを感づかれていた?
いや、まさか。田崎さんにそんなそぶりは一切なかった。
「だから、遠山の結婚式、また雰囲気変わるのかなって、少し楽しみ」
「な、何言ってるんですか。服装くらいでどうにかなるほどのいい素材を持ち合わせておりませんので……っ」
ちょっと。変なことを言わないでください、田崎さん。一体どういうつもりですか。
これだから、色男は困る。天然振りかざして不必要に人を振り回す。
「そんなことないよ。内野さんは、もう少し自分に自信を持った方がいい。勿体ないよ。少なくとも、僕はそう思う」
「そんなこと、ないです――」
「お話し中のところすみません」
その声の方に顔を向けると、おそろしいほどにいつもの無表情をした生田が立っていた。