臆病者で何が悪い!
夕方の16時。同期の女子で、二次会が行われる会場の最寄り駅で待ち合わせていた。希が来られなくなったから、私を含めて三人だ。挨拶もそこそこに、早速二次会の会場へと向かう。
おそらく、男性陣は披露宴会場からそのまま二次会会場に向かったはずだから、もうきっと着いている――。そう思ったら、少し緊張した。
「沙都、早く」
「うん」
慣れないピンヒールの靴が私の脚元をぐらつかせた。
「わぁ、香蓮、素敵ー」
「そういう京子だってぇ。そのワンピース、とってもお洒落なんだけど」
会場のクロークでコートを脱ぐと、女子同士がきゃっきゃとお互いのファッションについて褒め合っていた。確かに。二人とも、めちゃくちゃ綺麗。
「沙都も、すごくよく似合ってるよ。 なんか、カッコイイって感じ」
「そ、そうかな……?」
私は、一年前の初めての友人の結婚式のために買ったこのドレスしかもっていなくて。
黒のサテン生地で、胸元がVネックになっているノースリーブのワンピース。シンプル。ただそれだけ。あんまり可愛らしいものが似合わないことは良く分かっている。
「すごく、大人っぽい。身体のラインに沿っているデザインだから、沙都のスタイルの良さが引き立つよね。タイトスカートなのが色っぽい」
「沙都のショートボブの髪形にもよく合ってる」
「ありがと……」
二人とも、本当に褒めるのが上手い。
「ああ、内野さん!」
予想通り、もう既に会場は多くの人で賑わっていた。当たり前だけれど、知らない人たちが多く詰めかけていて。そこに、見知った人が私に手を振っていた。
「田崎さん、じゃない……?」
満面の笑みでこちらを見ていて、一歩一歩私たちの元へと向かって来る。
「希の彼、だよね」
ひそひそと会話をしているところにやって来た田崎さんに、取り繕うように笑顔を向けた。
「こんにちは」
同じ課の先輩なのだから、まずは挨拶だ。
「どうも。沙都と同期の鈴木です」
「香川です」
慌てたように二人も頭を下げた。
「ああ、どうも。こんにちは。内野さんと同じ課の田崎です」
田崎さんがいつもの爽やかスマイルで二人に顔を向ける。
「私たちはよく存じ上げてます」
香蓮も京子もニコニコと挨拶をしたかと思うと、私と田崎さんの顔を交互に見た後二人して一歩下がった。
「じゃあ、私たちは先に同期のところに行ってるね」
「え、え……っ?」
なんで?
意味がよく分からないでいる間に、二人はあっという間に会場内へと消えてしまった。