臆病者で何が悪い!
「内野さん、すっごく綺麗。ちょっと、びっくりした」
「は、はい?」
香蓮と京子の背中を目で追っていると、田崎さんの声が間近で聞こえた。びっくりしたのはこちらだ。
「夕飯行った時は、女性らしいって感じの雰囲気だったのに、今度は大人の女性って感じで、またこの前とは違うな」
「いや、そんなことはないですけど……」
なんだろう。すごく、落ち着かない気分だ。目で追っていた京子や香蓮の姿は、既に同期の男性陣の中にあった。その様子が視界に入ると、さらに落ち着かなくなる。
もう、生田もこの会場にいるはず――。
そう思ったら、もう生田のことしか考えられない。でも、その同期の輪の中に生田の姿は見当たらなかった。
「それより田崎さん、希、今日風邪みたいですね。様子は、どうなんでしょうか」
田崎さんに会ったら聞いてみようと思っていた。恋人である田崎さんなら、希の本当のところの状況が分かっているはずだ。
「……ああ。希は、数日前から体調崩していて。だから、今日は無理だろうなって話していたんだ」
「そ、そうなんですか。でも、それは心配ですね」
「まあ、ね」
急に田崎さんの表情が翳る。希の体調が、心配なのかな。
それと、以前は『飯塚さん』と呼んでいたのが『希』に変わっていたことに、無意識でドキッとしてしまった。
そこには、親密な二人の間柄があらわれているような気がして。大人の男女だ。当然、もう大人の関係だろう。好き同士の二人なんだから。
「それより、お酒、何か飲む? 僕、取って来るから」
「い、いえ。自分でやりますので」
慌ててそれを制止した。私も早くこの場から動きたい。会場の入り口付近のこの場所は、少し会場から隠れたような場所になっていてなんとなく落ち着かないのだ。そして、生田の姿をまだ見ていないことにも落ち着かない。
「私たちも、行きましょうか」
ぎこちなく笑みを浮かべて田崎さんにそう告げた。こんな場所で田崎さんと二人でいる必要はない。
その時だった。
「そうだね。じゃあ、行こう――。ああ、生田」
田崎さんの声で、振り返る。会場入り口脇の通路から、生田が出て来た。その視線が、まっすぐに私に向けられている。