臆病者で何が悪い!
「ああ、内野も来たか」
同期が集まる場所へとたどり着くと、桐島が一番に声を掛けて来た。
「うん」
同期の集団の端にいる生田がどうしても視界に入ってくるけれど、あまりにじっと見るわけにも行かない。壁にもたれている生田の隣には、京子がさりげなく立っていた。
「おお、なんだ。今日は、ちゃんと女になってんじゃん」
桐島が、もう既にできあがっているのか、顔を赤くして大きな声を張り上げる。
「いつもちゃんと女ですけど」
いつものお決まりのやり取りだ。他の男子も、こんな私と桐島のお約束のやり取りに笑っている。ただ、それだけのこと。
「内野さんは、もともと綺麗だと思うけどな。いつも隣の席にいる僕の方が、同期の男よりもよく分かっているのかな?」
それなのに、突然田崎さんがそんな言葉をぶっ放して来た。同期の男たちが、固まる。
「あ、いや、残念ながら俺らじゃ分からなかったみたいっす。ヘヘ」
ただ、桐島は酔っ払いと化していたので、一人おちゃらけて笑っている。
「やだ、桐島君。それ、沙都に失礼」
咄嗟にフォローしている香蓮の声が上擦っている。まわりの同期も同じように引きつった笑いを上げるしかないようで。ただただ気まずい雰囲気が流れた。
以前の私だったら、この田崎さんの発言は、死ぬほど嬉しかったに違いない。
私のことなんてまるで女扱いしていない男たちの前で、ただ一人、それも好きな人そんな風に言ってもらえたら。泣けてくるほど嬉しかったはず。
でも、今私の心にあるのは、ただ生田のことだけだ。壁にもたれて俯いていた生田が、そっとその場から離れるのが視界に入る。
「あ、生田君、何か飲む? 私もおかわりもらいに行こうかな」
そんな生田を京子が追いかけた。
「田崎さん、グラスが空ですよ。何か持って来ましょうか?」
隣では、先輩である田崎さんに気を使う男子の誰かが声を掛けていた。
私と生田の関係を、同期にも知られたくない。もちろん、同じ課である田崎さんにも。
そう言ったのは私だ。
――あんたは明日、また、俺とはなんでもないみたいな顔をするんだろう?
昨晩の電話での生田の声が蘇る。
「おおっ、遠山たちだ」
その場の雰囲気を払拭するように、遠山と新婦が会場に登場した。