臆病者で何が悪い!
結局、生田とは一言も言葉を交わさずに、二次会は終わってしまった。
何のつもりか、本当に田崎さんが私の隣にずっといて。生田の隣には京子がずっといって。その上、遠山の奥さんの友人みたいな女子たちが、ひっきりなしに生田に声を掛けていて。
それをやきもきしながら見ている京子をやきもきしながら見ている私、というわけがわからない状態だった。
「まだ時間早いし、この後同期だけで飲み行くか」
この男はまだ飲むつもりか。桐島が会場を出てからそんなことを言い出した。
「おお、いいな。まだ7時だろ? 帰るには早いし、行こうぜ」
と思ったら、他のみんなも昼からかなり飲んでいて、テンションが高い。でも、私まったくそのノリに付いて行けない。心ここにあらず、だ。
「よし。行こう! じゃあ、内野、店探してくれ。俺、人数把握するから。そうだ、田崎さんも一緒にどうですか? せっかくの機会だし――」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
また、勝手に……。それも仕方がない。こういう時の私の役割だった。
でも――。
つい、この目が生田の姿を探してしまう。
あれ――?
今の今までいたと思っていた生田の姿が消えていた。
「ねえ、生田は?」
一番近くにいた同期の男をとっつかまえる。
「生田? ああ、今日は帰るとか言って、たった今帰ったけど?」
「……帰った?」
心の中がざわざわとざわつく。どうしようもなくざわついた。
本当に疲れただけかもしれない。私に何も言わずに帰ったのは、周囲の人に私との関係がバレないため。後ですぐにメールが来るかもしれない。
頭ではそう思うのに、それでもこの心はまったく落ち着こうとしない。
「沙都、どこかいいところ、お店ありそう?」
香蓮の声が聞こえる。確かに聞こえてはいるんだけれど、頭が働かない。
「田崎さんも行きましょうよ」
「どうしようかなぁ。内野さんも行く?」
「内野は行きますよ。幹事ですから」
桐島と田崎さんの会話もどこか遠くのものに聞こえて。
このまま何も言わずに生田を帰してしまったら、絶対に後悔する。それだけは、私の中ではっきりした。
「沙都――?」
「ごめん。私、帰る。お店は、今日はみんなで適当に探して。すみません田崎さん、失礼しますっ」
「えっ? お、おい!」
みんなの声がどうでもよいものになる。クロークでコートを受け取り、腕にかけたまま会場の外へと出た。地下鉄の駅へ。一刻も早く。ただそれだけを考えた。