臆病者で何が悪い!
もしかしたら、もう私のこと嫌になったのかもしれない。こんな可愛げのない女、愛想を尽かされても当然。
それでも、追いかけずにはいられなかった。どうしてだろう。どうしても生田に会いたかった。明日じゃだめなのだ。
どうしても、今、会いたい――。
会場の通り沿いの細い路地を走る。すぐそこを抜ければ大通りに出るというのに、人気はあまりなかった。薄暗い道を見回しながら走る。慣れないピンヒールが走るのを邪魔して、脱ぎ捨てたくなる。
もう少しで大通りに出る、その路地の先に見慣れた背中があった。
「生田っ!」
待って――。声を張り上げると、その背中は立ち止まった。その背中がこちらを振り向く。
「内野……。これから飲みに行くんじゃないのか? もしかして、俺に気を使った、とか?」
二人でいる時と全然違う声。
「何も言わないで出て来たりして、悪かった」
気を使っただなんて。そんなんじゃない。薄暗くて生田の表情ははっきりしない。そう思っていたら、生田は再び私に背を向けた。その背中が私を拒絶しているみたいで。いくらじっと見つめても何も言ってくれない。
「生田――」
「……今日は、あれ以上あの場にいられなかった。あんたを見ていられなかったんだ」
背を向けたままで、生田がどんな表情をしているのか分からない。
「あれ以上いたら、俺は多分、何も考えずに、あの場からあんたを無理やり連れ去ってた」
「生田っ」
その声が苦しそうで、思わず呼びかけても生田はこちらを見てくれない。
「――悪い。今日一日冷静になればまた元に戻るから。だから、あんたはもう戻れ」
理由なんて分からないのに、その背中が辛そうに見えて、手を伸ばしていた。でも、触れるより先に生田の背中が遠ざかる。